形なきものを受け継ぎ、次世代へつなぐ私の「道楽」

形なきものを受け継ぎ、次世代へつなぐ私の「道楽」
合同会社久遠

合同会社久遠

日本式道楽割烹「久遠(くおん)」は、代表の近江氏が手がける、飲食業の枠を超えた、紹介制・思想共有型の店舗です。
事業承継や社員譲渡の経験から導き出した「形は変われど思想は残る」という信念を軸に、富山県砺波市を拠点として活動しています。

出口の先に残ったもの「企業理念」という魂の継承

事業承継を経験し「事業の形が変わっても、変わらずに残ったもの」は何でしたか?

近江さん:私はかつて、自ら引き継いだ「8番らーめん」の事業を社員たちへ譲渡するという、経営者としての「出口」を経験しました。よく「事業承継」と言いますけど、そこで経験したのは組織という「形」を手放した後に、何が変わらずに残るのかということです。

結論から言うと、残ったのは「企業理念」なんです。 ここで勘違いしてほしくないのは、経営者がその時々の時代に合わせて作る「経営理念」や「経営ビジョン」とは別物だということです。経営者は時代とともに変わるじゃないですか。社長のお子さんだったり、血の繋がらない社員だったり。
そのリーダーが変わるたびに、経営戦略やビジョンが変わっていくのは、むしろ当たり前のことなのです。

だけど、創業から続く「なぜこの会社が存在するのか」という魂の部分、つまり「企業理念」だけは、誰がリーダーになっても変わらずに受け継がれていく。
私が承継した会社の場合は「私たちはありがとうを発信するホスピタリティリーダーとして、世界の平和に貢献します」という言葉でした。

事業を譲渡して、経営の形がどれだけ変わっても、今の経営陣はこの理念を軸に据えて事業をやっている。それを見たとき、私は確信したわけですよ。
「あぁ、経営者が本当に残すべきは、目に見える数字や看板じゃない。時代を超えて人の心を動かし続ける「思想」そのものなんだ」と。だからこそ、今はこの「思想の継承」に残りの人生を懸けているんです。

有難当」のロジックと、ホスピタリティの正体

大切にしている想いはありますか?

近江さん:私が掲げる理念の核心には「ありがとう」という言葉があります。でも、これはただの綺麗事じゃない。みなさんにも「ありがとうの反対語は何だと思いますか?」と聞くのですが、その答えは「当たり前」なんですよ。

「ありがとう」を漢字で書くと「有り難う」になりますよね。それは文字通り「有ることが難しい」ことにあたる言葉です。お父さんやお母さんがいるとき、あるいは仕事があるとき、私たちはついそれを「当たり前」だと思ってしまう。だけど、いざ失ってしまったときに初めて、それは「有ることが難しい、ありがたいことだったんだと氣づく※1」わけです。

つまり、困難や苦しい状況に直面して、それを乗り越えようとする力が発生したときに、初めて真の「ありがとう」という想いが生まれる。この「思想」は、ただ感謝しましょうという道徳の話じゃなくて、苦しいときに踏ん張るための「力」そのものなんですよ。
これを受信したり発信したりすることが、私の仕事の根幹なわけです。

それともう一つ大切にしているのが「ホスピタリティリーダー」という言葉です。ホスピタリティって、日本語で言うと「おもてなし」なんて訳されますけど、私が思うことはもっと泥臭く「人のことが氣になって仕方がないこと※1だと思っているんですよ。

お店でお客さまが何十人いらっしゃっても、一人ひとりの様子をちゃんと見て「何かお困りごとはないかな」と、手が挙がる前に氣づいて動く。ホテルでも一流と三流の差は、この「氣になる※1」という感度の差に出るじゃないですか。こういうホスピタリティを発揮できるリーダーをこの世の中にたくさん輩出できれば、きっと世の中は平和になる。そういう思いで、私はずっと社員を育ててきたんです。
かつて私がやっていた事業は、単にラーメンを売ることが目的じゃない。社員が育つのが、私は何より嬉しいんですよ。

※1 本記事では、ゲストである近江氏の“四方八方に心や目を配る”という言葉のニュアンスを大切にしたい」という意向を尊重し、以降、同氏の発言内において「氣」という表記を使用しています。

煩悩の果てに辿り着いた「三尾の鯛」と利他の心

今の近江さんをつくり上げた「原体験」を教えてください

近江さん:今でこそこんなことを言ってますけど、昔の私は「稼いで、いい車に乗って、うまいものを食って、いい服を着たい!」ずっとそうでした。
昔はレクサスの最高級グレードなんかに乗っていた時期もありました。でもね、ふと氣づいたわけです。高いステータスの車やモノを見せびらかして、自己満足して、それで一体何が楽しいんだろうって。

マズローの五段階欲求ってあるじゃないですか。生命の欲求から始まって、一番上が「自己実現」だという。なりたい自分になりたいという欲望が一番だと言われているけれど、私は、そのもう一つ上があるんじゃないかと思ったわけです。それが「利他(りた)」つまり他人の利益を考える欲求です。

人間の中には「三尾の鯛(タイ)」が泳いでいると言ったりするのですが、 一つ目が「褒められたい」二つ目が「認められたい」そして最後が「お役に立ちたい」という鯛。この「お役に立ちたい」という欲求こそが、人間にとって最高の、一番自分を前に進めるエネルギーになるんじゃないかって。

そう考えると、売上や利益の意味もガラッと変わります。 売上とは、突き詰めれば「お客さまの満足度の対価」です。そして、利益とは「理念を達成するための原資」なんです。利益が出たら、三分の一は社員に還元して、三分の一は税金として納めて、残りは将来の事業のために取っておく。全部、理念を達成するために論理的に循環させるものなわけですよ。

かつて高級車や贅沢な暮らしに執着していた私が、今では「職業を通じて世の中を幸せにする」というロータリークラブの奉仕精神に深く共感しているのは、欲望の果てに今の考え方を見つけたからなんですね。自分一人がいい思いをするより、誰かのお役に立てていると実感する方が、人間としての器も大きくなる。

ちょっと宗教っぽく聞こえるかもしれないけど、私は「oh!me教」の教祖なんて言われながら、テレパシーの修行をするかわりに、この思想を説いているわけです(笑)。

地域を支えるインフラとしての中小企業と「道楽」

地域における「経営者の役割」は何だと捉えていますか?

近江さん:地域における中小企業経営者の役割というのは、自分の会社を儲けさせるだけじゃないんですよ。地方都市において、中小企業は地域住民の暮らしを守る「インフラ」そのものなんです

ドラッカーも言ってますが国や国民を豊かにするのは行政ではない。企業だって。日本の豊かさは、間違いなく今までの企業の人たちが作ってきたわけです。地域という単位で考えても同じこと。人口減少や少子高齢化、空き家問題といった社会課題を解決できるのは、実は地域に根ざしてリーダーシップを発揮している経営者たちなんですよ。

経営者は、会社という組織のリーダーであると同時に、地域のリーダーでもある。お祭りがあれば実行委員長をやり、PTAがあれば先頭に立つ。そうやって「まつりごと」に駆り出されるのは、リーダーシップを持っているからこそなんです。そういう人たちが地域を元氣にしていけば、まちは必ず良くなる。

私が構想している「日本式道楽割烹(Japanese style“Do-Luck”Kappo)久遠(くおん)」という箱も、まさに思想の実装なんです。あえて「紹介制・思想共有型」にしたのは、ただご飯を食べるだけの店を作りたいわけじゃないから。効率とか利便性とか、現代ビジネスが追いかけているものとは真逆の「無駄」の中に宿る豊かさや体験を楽しむ場所。

「道楽」という言葉を掲げたのも、真剣に遊び、真剣に文化を創るという覚悟の表れです。合理性だけじゃ文化は生まれない。自分なりの美意識を持って、経営と文化を融合させる。一見すると「道楽」に見えるような本氣の挑戦こそが、地域に深い思想を残していくんだと、私は信じているわけです。

100年後の地域へ。継承されるのは「思想」という灯り

地域に思想を残す経営が体現された未来はどうなると思いますか?

近江さん:私が提唱している「地域に思想を残す経営」がもし浸透していったら、100年後の砺波、ひいては地域がどうなっているか。想像するだけでワクワクします。

きっと、ただ古い建物が残っているとか、そういうことじゃないと思うんです。そこに住む人たちが、自分たちのまちに誇りを持ち、お互いを思いやる「精神的な豊かさ」が循環している。たとえ時代の荒波で事業の形が変わったとしても、その根底にある「誰かの役に立ちたい」という思想だけは、灯火のように脈々と受け継がれている。そんな世界に誇れる都市になっているはずです。

私はよく、後世に何を残せるかを考えるんです。「お金や土地を残しても、それはいつか形を変えて消えてしまうかもしれない」けれど、一度地域に根付いた思想は、人の心から心へと手渡され、100年先まで消えることはないと思うんです。

「久遠」という名に込めたように、久しく遠い未来まで、この地域の美意識や哲学を繋いでいきたい。100年後の砺波を歩く若者が「あぁ、このまちは豊かだな」と感じてくれる。そのきっかけとなる「思想の灯り」を、今この時代に生きる私たちが一つずつ置いていく。それこそが、現役世代が果たすべき本当の責任なんじゃないか、そう思うわけですよ。

若き志士たちへ。手放す勇氣と「Oh! Me」の発見

若手世代や現役経営者へのメッセージをお願いします

近江さん:これから自分の生き方を模索していく20代、30代の皆さんに伝えたいのは「自分を信じる力」を自分で作り出してほしいということです。

私はこれから「Oh! Me塾」という塾を開こうと思っています。ポスターも作っている最中なんだけど「近江」っていうのは英語の「Oh, Me!」でもあるわけです(笑)。
「Oh」は氣づき「Me」は自分自身。「あぁ、俺にはこんな力があったんだ」「私にはこんな価値があるんだ」という自己肯定感。それこそが、人を動かし、地域を動かす最大の原動力になると思っています。

もしかしたら、今の若い人たちは自信を失いやすい環境にいるかもしれない。だけど、マイナスを背負って生きるんじゃなくて、自分で自分を奮い立たせるセルフモチベーションを持ってほしい。自分を肯定し、前に進む力を自分で作り出す。それが、地域を良くするリーダーの第一歩ですから。

これから事業を継ぐ人、あるいは地域で何かを始めようとする志士たちに言いたいのは「手放す勇氣」を持ってほしいということ。過去の成功体験、目先の数字、自分を大きく見せようとするプライド。
そういう執着を潔く手放したとき、初めて本当に守り抜くべき「魂」としての理念が見えてくる。

経営者が真っ先に手放すべきは、自分のエゴです。そして、何があっても守り抜くべきは、地域に灯す思想です。人生は、何歳になってもやりたいことがあるからこそ楽しい。
「まだやりたいことがあるぞ」って言いながら、私はこれからもこの「思想」という名の灯りを置き続けたい。その灯りが、いつか皆さんの未来を照らす唯一の光になると信じています。

さあ、一緒に面白い未来を創っていきましょうよ。

企画・運営会社:株式会社ミミタス
撮影・ライター:長谷川 泰我
メディアに関するお問い合わせ:memi.co.jp

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